2012年4月4日水曜日

黄昏ミニヨン想録堂 アイ、ロボット


 アシモフの原作をウィル・スミスが総指揮で映画化と言うだけで色々と地雷臭が漂っている中、やはり評判悪かったので期待せず見たのだが、なかなか悪くなかった。しかし、原作が『我はロボット』だと思うと、大変に微妙な作品である。

 とは言え、どの様な人間にも必ず何処か良い所がある映画もまた然りとはかのサヨナラおじさん事淀川長治先生の言葉である。その言に従って良かった所を上げてゆこう。

 まずは映像だな。未来と言うには突拍子も無い変化はしておらず、あくまで現代の延長線上にあるとしての細かなガジェットは悪くなかった。ウィル・スミス扮する刑事が振り回してる銃器とか、自動車のデザイン、工事用ロボとか地味にな。

 それからアクションで、これは結構頑� ��っていると思う。中盤でのカーチェイスや、終盤でのロボット達が集団で襲いかかって来るシーン等見応えがあった。カメラワークも良いし、ロボット等のCGも違和感無く見る事が出来た。この映画でアクション?と思うかもしれないが映画的に見れば悪くはあるまい。


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 後、個人的にだが、スーザン博士が可愛かったのが宜しい。原作の彼女はもっと冷徹と言うか、本当に人間に興味無い、ロボフェチであった(随分前に読んだのでもう大分忘れているが確かそうだった)がな。ウィルと恋愛関係にならなかっただけでも十分だ。

 これらが良かったである。さて、では悪かった所は何か、と言えば兎にも角にも脚本だ。と言うか、これが『我はロボット』としてはどうしようも無い程駄目で、全体に影響している。

 『我はロボット』において何が面白かったのか、と言えばそれはロボット達に課せられたルールである『ロボット三原則』(1.ロボットは人を傷つけない。2.1に反しない限りロボットは人の命令を聞 く。1,2に反しない限りロボットは自らを守る)を厳守している筈のロボットがそれに反する様な行動を取るロボットの、何がいけないのか探ると言うミステリー仕立てのもので、その謎を論理的に解いて行く事、毎回毎回変わったロボットが出てくる事が面白かったのである。


CAN- am450ds

 さて、映画の方であるが、成る程、確かに謎はある。1に反して自殺と思われたある博士を殺した(様に見える)ロボットの存在である。で、そのロボットをウィル・スミスが追う訳だが、それがかなり力任せだ。原作では、三原則のそれぞれが時と場合により複雑に絡み合い、矛盾を来たした事でロボットが謎の行動を起こすと言う感じであるが、それが無い。

 結果を言えば、そもそもこの三原則は守られていない。この映画の黒幕は感情らしきものを持ったマザーコンピュータで三原則を曲解し、人類と言う種を守る為にそれを拘束、監視、反抗する者に危害を加えていたのである。


スミスの新しい動画を再生します。

 人類を守る為に誰かを殺すと言う行為からして三原則を守ってないでは無いか、と思わないでも無いが、そこは百歩譲って良しとしよう。機械に人間としての感情が宿るか、と言うのを真剣に取り扱い始めるのは原作が書かれたより後だろうし、もし感情を持つならばそう言う事もするかもしれないからだ。浦澤直樹の『PLUTO』だって、そう言う話であろう。後に作られた第零条や『我はロボット』最後の話は、人類と人間を天秤にかけた話だった。また結局、描かれ方が陳腐で使い古された『機械の反抗』である事に過ぎないのも減点ではあるが、五十歩譲って言わないでおく。

 ただ、そこに行き着く最初の事件。博士を殺したロボット� �動機は何かと言うと、『博士が自らの言う事を何でも聞く、と誓わせた後で、自らを殺せと命じたから』なのである。これは幾ら何でもちょっとありえない。その博士が原則2を用いて幾ら命じようと、それが感情らしきものを得ているロボットだとしても原則1が働くので不可能なのである。


 例えばこれが、『我はロボット』を原作としたと語っていなければ、そこまで目くじらを立てる必要は無かっただろう。しかし、これはあくまでも『我はロボット』の映画化なのである。それが、三原則を蔑ろにするとは如何なるものか。

 宣伝のされ方から見ても、これはウィル・スミスの映画なのだから、原作等必要とせず、オリジナルとしてやるべきだったと思う。そもそも、あの手のロボット作品で『我はロボット』やその他の作品を受けていないものがどれだけあるだろうか。あくまで三原則(に近しいもの)を使っているだけに留めれば良かったのに、下手に原作に手を出したのが不味かったな。或いは、ロボットの感情をテーマとすれば良かったのだろうに� ��(それでも、攻殻には絶対勝てないと思うが)

 その意味でこの作品はあくまでも『アイ、ロボット』であり『我はロボット』では決してない。まぁ、あくまで悪性重視の娯楽映画として見れば良いのでは無かろうか。



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